稿本とは著作の底本のことを指し、撰者が自分で抄写したもの、ひとに頼んで謄写させたもの、撰者自身あるいは他人の校訂を経たもの、校正を終えて刊行を待っている状態に至ったもの、などが含まれます。このたびの特別展のテーマは傅斯年図書館所蔵の稿本です。清人の経・史・子・集それぞれの著作の稿本34種を精選し、それらをのちに刊行されたものとならべて展示することによって、稿本と刊本との違いをはっきりと見ることができるでしょう。

今回出展する『大學注』・『中庸注』・『遜齋易義通考』・『鏡幻編』・『黃帝內經素問校議』・『柳西叢談』・『畹香僊館遣愁編詩集』・『雙忽雷閣彙訂全本曲譜』などは、いずれも他の図書館には所蔵されておらず、また刊本も伝わっていない実に貴重な典籍です。

このほか、本特別展に出展される稿本には、撰者が異なる段階で校訂をくわえた校訂本もあります。原稿の様子をとどめている初稿本として、『廣雅疏證』・『尚書誼詁』・『明史列傳稿』・『大觀錄』・『思益堂日札』などがあるほか、『䜱䜪亭集』のように、刊行直前段階の校訂底本もあります。撰者(祁寯藻)は清の咸豊二年(1852)に起こった「定王息肩圖」事件を避けるべく、刊行時に十余首の詩題を削除しましたが、稿本にはこれらの詩篇がのこされています。これらは当該事件を研究する上で有益であり、きわめておおきな史料的価値を有するものといえます。